大判例

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神戸地方裁判所姫路支部 昭和35年(ヨ)23号 判決 1960年8月08日

申請人 大西勝治 外四八名

被申請人 株式会社小畑鉄工所

主文

被申請人が昭和三十五年一月八日申請人等に対しなした解雇の意思表示は本案判決確定に至る迄其の効力を停止する。

被申請人は申請人等に対し昭和三十五年一月八日から本案判決確定に至る迄毎月二十五日締切り同月末日に別紙目録記載平均賃金表に従い前月二十六日より当月二十五日迄の分を仮りに支払わなければならない。

訴訟費用は被申請人の負担とする。

(注、無保証)

事実

申請人等訴訟代理人は主文同旨の判決を求め其の理由として

一、申請人等は被申請人に雇はれている労働者を以て組織さるる三洋電機協力工場北条地区合同労働組合小畑鉄工所支部の組合員であつて被申請人は鉄工製品部品の製造等を目的とする株式会社であるが被申請人は昭和三十五年一月八日被申請人に期間の定めなく雇傭されている申請人等に対し解雇する旨の意思表示をなした。

二、併乍ら本件解雇は左の理由によつて無効である。

本件解雇は申請人等が労働組合を結成し之を運営していることを嫌つて該組合を弾圧壊滅する目的の下に事業廃止会社解散方針決定の形をとりこれを擬装してなされたものであるから不当労働行為たる解雇である。

即ち被申請人会社の小畑社長は労働組合結成当時「組合を結成するなら直ちに工場を閉鎖する」と放言し組合の切り崩しに努め其の後賃上要求一時金要求に関する団体交渉の行はれた席上に於て右小畑社長は「云うことを聞かないから工場を閉める」「これで気に入らんのならほかえ行つて呉れわしも工場を経営する気はないからビールでも飲んでさよならや」と述べ、前記解雇の通告をなした当時被申請人会社の社長として意欲を失つたから会社を解散する方針をとるについては全従業員を解雇するとの発表をしたものである。非組合員約十二、三名のものは小畑社長の姉婿経営の工場並びに同社長の友人の工場に働かされて居るが之等の人達の間では「組合を壊滅せしめたら又工場は再開されるのだ」と言われている斯様な諸般の事情を綜合すれば全く解散方針をとることを口実として組合を壊滅せしめようとして居るものと謂わざるを得ない。

三、申請人等の本件解雇当時の平均賃金は別紙目録平均賃金欄記載の通りであつて賃金は毎月二十五日締切り同月末日に前月二十六日より当月二十五日迄の分を支払われる定めである。

四、申請人等は被申請人に対し解雇無効確認等の本案訴訟を提起せんとするものであるが申請人等は何れも賃金を唯一の収入源とする賃金労働者であり所謂手から口えの生活をして居るのであるから其の支払を得られない結果重大な生活の脅威におびやかされているのでかかる急迫な強暴を避けるため本件仮処分申請に及んだ次第である。

と陳述し被申請人主張事実は之を争うと述べた。(疎明省略)

被申請人訴訟代理人は申請人等の申請を却下するとの判決を求め答弁として

申請人等主張事実中一、三記載の事実は認めるが其の余の事実は之を争う。

本件解雇は被申請人の従業員中労働組合員と非組合員との対立が激化し被申請人の生産額は之がために甚しく低下し赤字経営となり昭和三十四年十二月末頃から昭和三十五年一月初めにかけて非組合員は職場の雰囲気から勤労意欲を失つたこと等を理由として次々と退職するに至つたので被申請人は事業継続不能と認め昭和三十五年一月五日取締役会を開催し慎重審議の結果事業を廃止し解散する方針を決定し之に伴い同月八日本件解雇の意思表示をなしたものである。而して其の後同月二十九日臨時株主総会に於て解散の決議がなされた右解散は事業継続不能の事実に基くものであり被申請人には申請人等組合員を排除し其の団結を壊滅しようという考えは全くなかつたのであるから偽装でないことは勿論であつて本件解雇は不当労働行為ではない。

と陳述した。(疎明省略)

理由

申請人等主張事実中一及び三記載の事実は当事者間に争のないところである。

申請人等は本件解雇は不当労働行為たる解雇であると主張するに付き按ずるに何れも成立に争のない甲第二号証の二乃至六証人宮長昭次の証言により成立を認め得る甲第二号証の一証人下門義隆の証言により成立を認め得る甲第二号証の七証人宮長昭次同下門義隆の各証言申請人村田正一本人尋問の結果及び成立に争のない乙第四、五号証証人城田隆幸の証言の一部を綜合考察すれば

(一)  昭和三十三年十二月五日被申請人会社の従業員により小畑鉄工所労働組合が結成せられ次いで昭和三十四年九月三洋電機協力工場北条地区合同労働組合小畑鉄工所支部の結成を見るに至つたこと

(二)  被申請人会社の小畑稔社長は右労働組合結成の動きを察知するや昭和三十三年十二月四日同会社で行はれた朝礼の会に於て従業員等に向つて「君等が組合を結成するのなら直ちに工場を閉める」と言明したこと

(三)  同年十二月八日夜から翌九日朝にかけ被申請人側の小林、浅野、若宮外数名のものが数組にわかれて申請人等組合員の自宅を訪れ「これから社長が作ろうとしている第二組合に入れ、言うことを聞かなければ首にしてしまうそないしたら加西郡中どこえ働きに行くこともできなくなる今の組合の幹部は資格がないこの月の二十日迄に首になる」と申向け労働組合の切り崩しに努力したこと

尚其の後第二組合は成立するに至らなかつたこと

(四)  昭和三十四年四月五日春季賃上闘争に関する団体交渉の席上に於て被申請人会社の小畑社長は「言うことを聞かないのなら工場を閉鎖する」と言明したこと

(五)  昭和三十四年六月二十四日夏季一時金要求に関する団体交渉の際其の席上に於て前記小畑社長は「これで気に入らんのなら他え行つてくれ、わしもこれ以上工場を経営する気はないからビールでも飲んでさよならや、螢の光でも歌うてな」「君等は職安にでも行くか」と放言したこと

(六)  被申請人会社の従業員中労働組合に加入していないもの及び同会社の小林部長玉田部長小畑労務係員等は申請人等に対して本件解雇の行はれた直前である昭和三十五年一月四日城崎温泉に赴き同一旅館に宿泊したこと

同年一月六日の初出勤日には何等変つたこともなかつたが翌一月七日被申請人会社では突然工場の門や窓を釘付けにした上「会社の都合により臨時休業をする」旨の発表をなし翌八日申請人等に対し急遽本件解雇の意思表示をなしたものであつて

当時被申請人会社では本件解雇の理由として「非組合員達が組合員達とあわないから働きにくいと辞職願を出して来たこれでは会社は到底経営できないし社長としても経営意欲を失つたから会社を解散する」と発表し同月二十九日被申請人会社は臨時株主総会を開催し会社解散の決議をなしたこと

尚被申請人会社の従業員中の非組合員達は昭和三十四年年末から昭和三十五年年始にかけ退職届出をなしたこと非組合員等の間では本件組合が潰れたら被申請人工場は再開されるせいぜい半年程の辛抱だと言つていること

(七)  被申請人会社は昭和二十三年鉄工製品部品の製造等を目的として設立せられた株式会社であるが昭和三十四年十二月当時に於ける従業員総数七十九名(うち事務職員四名工員七十五名)で其の内労働組合員(工員)五十四名非組合員二十五名であつたところ本件解雇の通告を受けたものは被申請人に雇傭されて居る従業員七十九名中前示三洋電機協力工場北条地区合同労働組合小畑鉄工所支部所属の組合員であるものの殆ど全部なること

以上の事実を認定することができる。右認定に反する証人小畑稔の証言証人城田隆幸の証言中右認定に反する部分並びに成立に争のない乙第七号証の一乃至四の記載内容中右認定に反する部分は前示甲号各証証人宮長昭次同下門義隆の各証言申請人村田正一本人尋問の結果に徴したやすく措信し難く其の他被申請人提出に係る各疏明方法を以てするも右認定を左右するに足らぬ。

叙上認定の各事実を綜合考察すれば前示小畑社長の主導の下になされた会社解散方針の決定及び本件解雇は事業不振又は会社運営の意欲を喪失した結果と謂うよりむしろ申請人等が三洋電機協力工場北条地区合同労働組合小畑鉄工所支部の組合員であることを嫌悪し申請人等組合員の全員を解雇し之を排除する意図のもとになされたものであると認めるのが相当である。

被申請人は本件解雇は被申請人会社が経営不能に陥り事業廃止解散方針の已むなきに至つたのでなされたものなる旨抗争するが此の点に関する証人小畑稔同城田隆幸の各証言乙第七号証の一乃至六の記載内容はたやすく措信し難く其の他被申請人提出に係る各疏明方法を以てするも該事実を認定することはできない。尤も被申請人会社に於て昭和三十四年七月以降同年十二月に至る迄の加工月産額は同年一月以降同年六月に至る迄の加工月産額に比較し幾分低下したことは認め得るが本件口頭弁論の結果に徴すれば被申請人会社は所謂親会社たる三洋電機株式会社との取引状態も一応順調で相当の収益を挙げ得る情況にあつたこと被申請人の工場は北条町方面に於て設備優秀の工場と目せられて居るが同工場建物並びに其の機械設備等の権利関係に付き何等の変動なく何時にても操業をなし得る情況にあることを推認し得るのみならず被申請人会社の経営が赤字状態に陥り負債のため運営困難に陥つた等の事実を認むるに足る疏明もないので被申請人会社が経営不能の状況にあつたものとは到底謂い得ない。

従つて被申請人のなした本件解雇の意思表示は不当労働行為たる解雇として無効であり申請人等は被申請人の従業員たる地位を保有し被申請人に対し主文掲記の平均賃金を請求し得るものと謂わなければならない。

解雇が無効であるに拘らず被解雇者として取扱われることは賃金生活者の著しい苦痛であり速かに其の地位を保全させなければ回復すべからざる損害を受くることは明かであるから申請人等が被申請人に対し本件解雇の効力を停止する仮処分を求め且つ主文掲記の平均賃金の支払を求むる仮処分申請を認容すべきものとし訴訟費用の負担に付き民事訴訟法第八十九条を適用し主文の通り判決する。

(裁判官 関護)

(別紙省略)

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